ポストコロナの生活保障

ポストコロナの生活保障

衆議院議員

関 健一郎

 新型コロナウイルスで亡くなられた方に心からのご冥福を、感染された方の一刻も早いご快復を、そして最前線で働く医療関係者、エッセンシャルワーカーの皆様に心からの感謝の意を表します。

新型コロナウイルスの感染が拡大し、好むと好まざるにかかわらず、私たちの暮らし、働き方は、一変します。新しい日常、ニューノーマルを創り出し、慣れていかなければなりません。そうしたコロナ後のこれからを見据えて、私たちの暮らし、ここでは、生活保障のあり方について論じたいと思います。

 

ここでは、

  1. データから見る「日本の立ち位置」
  2. 日本が稼ぐために必要なのは?
  3. 日本に必要なセーフティネットは?
  4. 最後に

に分けて議論を進めていきます。

 

①データから見る日本の立ち位置

 去年8月、台湾に視察に行きました。政府関係者、台湾の航空会社の方と議論をする機会があれば、私は必ず同じ質問をしました。「日本を旅行先に選んでくれている台湾の皆さんはどのような理由で選んでくれるのでしょうか?」想定していたのは「京都の歴史に触れてみたい」「北海道の自然に癒されたい」「瀬戸内海の原風景を見てみたい」というような、我が国の文化歴史への感心という答えでした。

 

 しかし待っていた答えは「東京ディズニーランド」「ドラッグストア」「ラーメン」でした。おととし5月に、中国の視察に行った際の経験から、こういう答えばかりが返ってくることを経験済みでした。その際の出来事をご紹介します。政府高官が、公式の場で日本の観光について言及するときは「日本の文化や歴史、そしておもてなしの精神に多くの国民が触れるため、多くの中国人が日本に行きたがっている。」という社交辞令の挨拶をします。

 

 しかし、仕事を終えて同じ世代の人間として話をすると必ず「ディズニーランド」「ドラッグストア」「家電量販店」です。そして悔しいことに中国の高所得者層は欧州やアメリカに行く傾向が非常に強いということでした。去年、超党派のオーストラリア視察団に参加をした際も同じ経験をしました。最低賃金が高く、中心市街地において1000円以下でランチを食べることはできませんでした。そんな暮らしをしている人が日本を観光に選ぶ理由は一つ「物価が低いから」です。

 

戦後、原材料を輸入し、加工製品を輸出していた「ものづくり国家日本」は、高度経済成長を実現しました。その後、1990年代以降、安い賃金を求めて中国をはじめとしたアジア各国に工場を建設していました。その流れが逆転しつつあります。

 

 企業がどこで生産するのが合理的かを判断する一つの指標となる単位労働コストというものがあります。名目賃金の総額を実質GDPで割ったものです。生産量を1単位増やすために必要な労働コスト、と解釈することができます。当たり前ですが、数値が上がると労働コストが上がり、数値が下がると労働コストが下がることになります。日本と中国のこの数値が、2010年から逆転しているのです。ドルに換算して計算をすると1990年代は日本が二倍以上上回っていましたが、今は中国にその差を広げられ続けています。

 

 1990年の日本の平均賃金は38726ドルでOECD22か国中9位、2018年には40573ドルとOECD35か国中19位に転落。日本の伸び率は4点8%、OECDの平均は24点3%。給料が上がり続ける外国人が相対的に日本の物価を低く感じるのは当たり前のことといえます。このままでは、日本人が、海外に出稼ぎに行く日も近いと考えなければなりません。

 

②日本は何で儲けていく?

 日本がこれから何で儲けていくか。それにはまず、日本経済がどのように成り立っているか、大枠を正しく理解する必要があります。日本は「ものづくり国家」と考えていませんか?私もそう考えていましたし、引き続きものづくりが大切な日本のお家芸であることには変わりません。しかし、日本は「海外への投資」と「消費」の国なのです。

 

 「ものづくり」ではなく「海外への投資」が柱となることについて説明します。ものづくりの国かどうかを端的に示す統計に「貿易収支」があります。統計が始まった1950年からは赤字が続いていましたが、1965年に初めて黒字化します。1980年代には10兆円から15兆円の大幅な黒字を計上しています。2008年から黒字が減少し始め、2011年以降は赤字と黒字を行き来し、去年とおととしは赤字になっています。そしてポイントは、2005年から海外への投資から得られる収益である所得収支が貿易黒字を上回っている点です。

 

 

 その一方で、海外への投資から得られる収益である所得収支は、戦後積み上げてきた資本を活用して多額の投資収益を得ていて、2018年の所得収支は20兆円もあり、かつての貿易黒字のような勢いです。この海外への投資による収益は引き続き増やしていく必要があり、日本の稼ぎ頭であると認識しておくことが必要です。

 

 そしてもうひとつは「消費」です。これは単純ですが、日本には1億人を超える人口がいます。人口減少に歯止めがかからず、特殊出生率も1点36を記録するなど、消費の増加を見込むことはあまりできませんが、それでも1億人の人口がいて、世界で相対的に見れば一定以上の生活水準を保とうとしている市場は小さくはありません。消費は日本のGDPの6割を占めることからも大きな成長の柱となります。

 

 日本には、戦後蓄積してきた膨大な資本と豊かな市場があります。投資を積極的に促す環境を構築することと、この国内消費自体を対象にしっかりと経済成長をしていく必要があります。それは裏を返せば、輸入に過度に頼らない国家の構築へとつながります。冒頭申し上げましたが日本は「貿易立国」ではありませんが、「ものづくり」はお家芸です。

 

 この「ものづくり」をもう一度国内で展開することが必要です。新型コロナウイルス後の新常態という言葉に血を通わせるためには、マスク、消毒用アルコール、人工呼吸器。ほとんどを輸入に頼っていて惨憺たる状況になっていなかったか。37%の食糧自給率にもかかわらず、引き続き輸入に頼り続けるのか。想像を絶する新型コロナウイルスの第二波や世界的な危機が起こったときに、農産物を輸出している国が、輸出をやめて自国民に供給するのは国家として当然です。国内で生産・消費をすることを考えなければなりません。

 

 

③日本国民に必要なセーフティネットは?

前項で、日本は「海外への投資」と「消費」で成長していくべきだとお話をしました。「貧乏国ニッポン」という著書の中で加谷珪一氏は興味深い比較をしています。アベノミクス、民主党政権、小泉政権、橋本・小渕政権のそれぞれの政策と経済成長を比較しています。各政権における目玉政策と平均GDP成長率を比較し、ほぼ変わらないことを指摘しています。

  平均GDP成長率 柱とした経済政策
安倍政権 1点2% 量的緩和を中心とした金融政策
民主党政権 1点6% 特になし
小泉政権 1点0% 規制緩和を軸にしたサプライサイドの経済政策
橋本小渕政権 1点0% 大規模公共事業を中心とした財政政策

 

 そのうえで加谷氏は「日本経済には本質的な問題が存在していて、これが長期の景気低迷を引き起こしており、経済政策という側面支援だけではこの問題を解決することができません。市場メカニズムによって自ら新陳代謝するという企業活動が阻害されており、それに伴って消費者の行動も抑制されていることが日本経済の根本的な問題です」としています。政治にすべきことがないと言っているのではありません。

 
 むしろ、市場メカニズムが働く環境を作るのは政治の役割ですし、国民の消費行動に強い影響を与えるのは、法律であり、税制です。

 

 ただ今回深堀したいのは、日本の二つの柱にすべきである「海外への投資」と「消費」。この消費を加速させるためには、育児の不安、学びの不安、生活への不安、老後への不安を取り除く社会保障政策が必要です。私が提唱しているのは今の「低福祉・低負担」から「中福祉・中負担」への転換です。これが私のライフワークの一つ「尊厳ある生活保障」の実現です。

 

 この国に生を受けて、学校へ行き、結婚をし、病気をし、子育てをし、失業をし、親御さんの介護をし、ご自身の老後に備える。この国は自己責任に重心が行き過ぎています。行き過ぎた自己責任から便り愛の重心の移動をしていく必要があります。いかに自己責任か、データでお示ししていきます。

 

1⃣教育機関に対する公的支出の対GDP比はOECD中最下位

 まずは、教育から見ていきます。これは、国内総生産に占める初等教育から高等教育までの教育機関に対する公的支出についてです。割合が大きければ大きいほど、国家として教育に投資をしているということになります。日本は2点9%とOECDのなかで35か国中最下位。ちなみに平均は4%、1位はノルウェーの6%です。

 

2⃣家族向け支出の対名目GDP比は、OECDでは平均以下
 
 続いて、家族向けの支出です。家族手当や出産、育児休業、などの現金給付と、無償の保育就学前教育や住宅サービスなどを合わせた現物給付について政府が支出をした名目GDPに対する割合は、スウェーデンが3点54%、イギリスが3点47%、フランスが2点94%、ドイツが2点22%、イタリアが1点96%、カナダが1点55%、そして日本が1点31%、ちなみにOECD平均は1点97%です。

 東京大学Cedepとベネッセ教育総合研究所の共同研究「乳幼児の生活と育ちに関する調査2017」によりますと、0~1歳児を持つ家庭のおよそ80%が「お金がかかること」を理由に確かを断念していることが明らかになっています。経済成長を続ける国家ではない日本の社会で、社会保障制度が自己責任に重心が行き過ぎた行き着く先は、未曽有の少子化といえます。

 

3⃣現役世代向けの給付は圧倒的に少ない

 家族、失業、住宅などへの給付に加え、労働者に職業訓練や職業紹介を行う積極的労働市場政策に支出される給付を「現役世代向けの給付」としますと、日本の現役世代向けの給付は先進国ではトルコに次いで34か国中ワースト2位と圧倒的に低いことがわかります。
その一方で、高齢者向けの給付は、トルコ、イタリア、ギリシャ、ポルトガルに次いで5番目と比較的高い水準にあることも指摘しておきます。

 

4⃣各国の国民負担率

 最後に、国民全体の収入に対して、税金の負担と社会保障の負担が占めるかを国民負担率といいます。日本は42点8%です。上位3か国はルクセンブルクの87点6%、フランスの67点2%、デンマークが66点4%です。下位3か国に目を向けると、メキシコの22点6%、チリの24点2%、アメリカの33点1%です。日本は、34か国中下から7番目で、相対的に「国民負担率が低く、自己責任に重心が置かれている」ということができます。

 

④最後に

 ここまで、高度経済成長期のような成長が見込まれない中で、日本が経済成長をしていくためには「消費」と「海外への投資」を大きな柱にすべきこと、そして消費を活性化するためには生活の不安を除去することが必要であり「尊厳ある生活保障」を実現することが不可欠だと主張しました。

 

 国民負担率を見直し、財源を確保したうえで、すべての世代の不安や課題を解決するための行政サービスを充実させることで社会の分断(世代間の分断、持つ者と持たざる者による分断)を解消しなければなりません。財政の制約という壁を越えられなかったことが、日本の競争力を低下させ、人口の減少を助長し、地方経済の疲弊を生み出しました。

 

 医療、教育、介護など生きるために不可欠なサービスにおいて、自己負担を軽減して、誰もが雨風をしのげて、家族と笑顔で最期を迎えることができること、これが「尊厳ある生活保障」です。そして、日常における必要な 食費、被服費、光熱費 などの生活扶助、そして生活を支える住宅手当を創設し「品位ある命の補償」を実現します。

 

 尊厳ある生活保障は、すべての人を受益者にして社会の分断をなくすことで、将来の不安を解消し、誰もが希望を持てる社会を実現することを目指しています。まずは財源論から逃げずに、消費税や富裕者課税を軸に税金のベストミックスを議論します。そして国民負担率はドイツとイギリスの間ぐらいの50%とします。その財源を何に振り分けるか。

まずは子どもへの支出です。幼児教育の無償化に8000億円、や専門学校などの授業料の無償化に5兆円、大学授業料の負担軽減に3兆円。

 

 次に現役世代です。保育士、幼稚園教諭の処遇改善におよそ6000億円。介護士の処遇改善に8000億円、給食費・学用品・修学旅行などの無償化・給付型奨学金や国費留学の拡充や再就職支援などに1兆円。これらが現役世代への給付です。

 

 そしてすべての世代への支出は、家計全体で医療・介護・保育・障害に関する自己負担額の合計額に上限を設定する「総合合算制度」に6点4兆円、住宅手当に2点6兆円、障がい者福祉に数百億円。すべての世代に切れ目ない支援を実現します。

 

 新型コロナウイルスで「これだけ税金払っているのにいざという時に戻ってこない」と感じた方も多いと推察します。税金を負担に感じる最大の理由です。国民負担率をあげても、私たちの暮らしに使われなかったり借金の返済に使われなかったりしてきました。税金を負担から絆に。そのためには「負担が上がった、その分暮らしの不安が解決された」この体験が、不可欠です。

 

(参考資料)

※幸福の増税論          井手英策
  
※貧乏国ニッポン         加谷珪一

※world depelopment indicators 世界銀行
      
※ものづくり白書         経産省

※国際収支状況          財務省

※国民負担率の国際比較      財務省

※資金循環統計          日本銀行

※家計調査            総務省

※乳幼児の生活と育ちに関する調査 東京大学Cedepベネッセ教育総合研究所 共同研究