感謝しかない、お世話になった組織だからこそ、具体的な経験を元に、NHKの改革の必要性について言及致しました。
主体的で、抜本的な改革が求められています。
NHKの後輩の記者の女性が過労死をした事件。NHK記者時代から感じていたこの組織の構造的な問題を浮き彫りにしています。
それは「総無責任体制」です。しわよせは、いつも現場にきます。二度とこのようなことが起きないよう、具体的な体験に基づいた問題提起をします。
東日本大震災当時、私は経済部の記者として東京電力を担当していました。そのとき、部の最高責任者に「ガキのケンカに親を引き込むようなことはやめろ」と言われた出来事。今でもはらわたが煮えくりかえります。
福島第一原発の事故の問題で、政府も、東京電力も、そしてマスコミも混乱を極めていました。そんななか、東京電力の報道対応がずさんだったため、報道各社は、経済部長名で東京電力に対して適切な報道対応を求める要請文を出すことにしました。
民放の記者からNHKの私にも依頼があり、正確な情報を出すことにつながるとの観点から、私はすぐにその要望を受けました。新聞・テレビの各社は相次いでそこに名を連ねていきましたが、唯一、名前を連ねなかったのは、
NHKでした。
後日、NHKの放送センターの経済部の居室で、当時の責任者が私に投げかけた言葉は、一生忘れられない屈辱的なものでした。責任者は、サンダルをぱたぱた音をさせながら僕に近づいてきて「ガキのケンカに親を引き込むようなことはやめた方が良い。そのセンス、相当ずれてるよ」との発言。
東京電力の取材現場に戻って、他社の先輩記者から「NHKさんだけは、東電への適切な対応を求める要請文に名前を連ねるのはいやなんだってね。いったい何のために経済部長の名前ってあるの?NHKさんの経済部長様はそんなに偉いんだね」と皮肉たっぷりに言われました。この他社の先輩記者と私は、まったく同じ気持ちでした。
現場の状況に思いをはせることもなく、現場を守るどころか侮辱をする。このような思考回路を持つ人間がNHKという組織の中枢にいる限り、表面的な再発防止策をいくらこれから出そうとも、本質的な解決につながるわけもありません。
「風通しが良い」など形式的に、表面的に言葉を並べるだけでなく、本質的に現場の負担を軽減しようとしている人間がNHKの中枢に何人いるのか。今も過度の負担がかかっているのは、現場です。
多くの先人が築き上げてきたNHKの公共放送の信頼をこれ以上失わないためには、今すぐの、換骨奪胎の改革が求められています。