日本学術会議をめぐる問題。
頭の整理にご活用ください。キーワードは
①餅は餅屋
②学問の自由
③日本学術会議の組織改革
です。
「日本学術会議をめぐる問題の本質」
▼はじめに
今月1日、菅内閣総理大臣は、日本学術会議が推薦した会員候補105人のうち6人を除外して任命しました。推薦された人を任命しなかった例はこれまでなく、日本学術会議は6人を任命しなかった理由の説明と除外した6人の任命を求めています。菅総理は「総合的、ふかん的活動を確保する観点から判断した」と述べ、具体的な説明を避ける一方で「学問の自由」を侵害するとの指摘を否定しています。
結論から申し上げますと、この事案には二つの問題が混在しています。ひとつは、日本学術会議という独立した存在の人事に政府が初めて「手を突っ込んだ」ことで「学問の自由」が失われる恐れを学者や国民が感じたことです。そしてもうひとつは、日本学術会議それ自体の改革の必要性です。
▼日本学術会議は「独立」して提言を行う組織
まずは仕組みを理解していただくため、日本学術会議の建てつけについてご説明します。日本学術会議は、日本学術会議法に基づき、昭和24年、内閣総理大臣の所轄の下、政府から「独立」して職務を行う「特別の機関」として設立されました。
87万人の科学者を内外に代表する機関であり、内閣総理大臣が任命する210人の会員などによって構成され①政府に対する政策提言②国際的な活動③科学者間ネットワークの構築④科学の役割についての世論啓発、を行います。
政府に対して専門的な知識をもとに提言をすることが求められ、政府の方針を科学的に理論武装させることは求められません。重要なポイントは、国民にとって有益となるよう、政府の統治機構の中にあるのではなく、統治機構の外側にあることで、独立した科学的な提言ができるという建てつけになっていることです。
▼政府が日本学術会議の人事に「手を突っ込んだ」ことは初めて。
日本学術会議は「学者の国会」とも言われていて、任期6年の210人の会員の半分が3年ごとに任命されます。内閣総理大臣が任命しますが、これまでに日本学術会議が推薦をした人をそのまま任命してきました。この仕組みができて初めて、日本学術会議が推薦した人105人のうち6人を菅内閣総理大臣が除外しました。
▼なぜ「手を突っ込んだ」のか。
なぜ除外したのか。除外された6人は、特定秘密保護法や平和安全法制において政権に対して批判的な姿勢を明確にした科学者であることから政府の方針に反する意見を持つ学者を除外したのではとの疑念が生じています。
まずは、政権に批判的だった6人を除外したのか。説明をしなければなりません。そして菅総理は「総合的、ふかん的な活動を確保する観点から、今回の任命についても判断した」と述べています。なぜ、この6人を任命することで「総合的、ふかん的な活動」がなぜ確保できないのか。具体的な説明をしなければなりません。
▼人事への介入は「学問の自由」を脅かしかねないことが最大の問題
ここが最も重要なポイントです。なぜ政府が日本学術会議の推薦を除外すべきではないのか。それは、科学者がなんらかの政治的意見を表明したことを政府が問題視し、人事に介入してその科学者を排除するということは「学問の自由」を侵害するからです。
なぜ「学問の自由」を侵害してはいけないか。時の政府にとって、その研究の内容が耳触りが良くても悪くても、ある研究が何十年もたってその重要性が理解されるようなものでも、さらにはたとえ日の目を見ない研究だったとしても、科学者が自由に学問を探求できる環境を作ることこそが、学問の多様性や深まりにつながるからです。
「餅は餅屋」という言葉があります。専門外の政治家が訳知り顔で介入するよりは、その専門家の中で、より社会に役立つ学問は何かを悩んでもらったほうが国益にかなうのではないでしょうか。私はそう確信しています。
▼日本学術会議にも改革の必要性あり。しかし6人の排除は別次元の問題
その一方で、日本学術会議も徹底的な改革をしなければならないのも事実です。女性の比率の極端な低さ、権威主義的に人脈が重要視されすぎるなどの指摘もあります。しかし、6人を排除した問題と日本学術会議の組織改革の問題は全く別次元の問題です。日本学術会議の組織や人事のあり方について徹底的な改革を進める。それは大いに賛成します。しかし、6人を排除することを正当化するものではありません。
日本学術会議法17条には会員の選考基準について「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする」とあります。6人をなぜ除外したのか。「優れた研究又は業績」があるかないか、という理由以外の理由ならば、法律に違反する可能性もあります。明確な説明が、求められています。