「国会は閉じてはならない」
新型コロナウイルス感染症で亡くなられた方、特に自宅待機中や入院調整中に、病床が足りず必要な医療を受けることができずに亡くなられた方々に対し、国会に身を置くものとしてお悔やみとお詫びを申し上げます。
自民党の姿勢は「お店でお酒は出すな、店は早めに閉めろ、出歩くな、補償金は準備してるから。色々問題もあるけど国会は予定通り閉めますね」というものです。
未曾有の有事に通常運営という感覚も信じ難いですが、感覚ではなく論理的に国会を閉めてはならない三つの理由を述べます。
第1の理由は、病床確保の法改正が必要だからです。日本の人口1,000人あたりの病床数は13床とOECDで最多ですが、1病院あたりの医師の数は、米国やドイツに比べて3分の1以下です。米国や英国では医師1人がほぼ1病床を診るのに対し、日本は医師1人で5つの病床を受け持つなど、医療従事者や医療機器が分散し、先進国では異例の「低密度」となっています。
これは、施設あたりの医療従事者の人数を増やす改革を怠ってきた自民党政治のツケが回ってきたとも言えます。
ただ、平時に分散していたとしても、国や知事による病院間の機能に応じた役割分担と総合調整がうまく行けば対応できたはずです。しかし、コロナ治療後も転院先が見つからずに新たな重症患者を受け入れられない結果、自宅療養中や高齢者施設での待機中に尊い命が失われたことは、現行制度の問題点を浮き彫りにしました。
菅総理も緊急事態には、民間病院に対しても国や知事が患者受け入れの指示や命令を出せるよう「法律を改正しなければならないと痛切に感じている」と明言されました。
なぜ法改正をせず国会を閉じるのか、分かりません。
第2の理由は、水際対策の法改正が必要だからです。
今後五輪関係者の入国に合わせてのウイルスの流入が懸念されるものの、五輪関係の入国者には14日間待機を免除。ワクチン接種を義務づけもせず、国際的に約束した「安全・安心な」五輪は可能とは思えません。
こうした制度の不備を放置したまま国会を閉じ、五輪を開催しようとしてはなりません。
水際対策を強化する検疫法や出入国管理法などを改正しなければなりませんでした。
そして第3の理由、最大の理由は、追加の経済対策を今すぐ議論しなければならないからです。
ワクチン接種が進む中、世界経済は急回復の兆しを見せていますが、日本だけが取り残されています。先月OECDが発表した今年の経済成長率の予想では、日本はG7の中だけでなくG20の中でも最下位、OECD38カ国の中でも下から2番目です。相対的に感染者数や死亡者数が少ないのに、この回復の鈍さは、ワクチン接種の遅さだけでなく、経済政策の方向が間違っているからに他なりません。
今、世界の財政政策の潮流が大きく変わりつつあります。1980年代以降の小さな政府、構造改革路線から転換し、「大規模、長期、計画的」な積極財政策が採用されつつあります。日本の現時点(6月13日)のワクチン摂取率は約14%、アメリカの4ヶ月前と同じです。日本でもワクチン接種が進み始めた今こそ、積極財政策によって、コロナで傷ついた経済の回復を確実なものにしなければなりません。
国会を延長し、速やかに30兆円規模の補正予算編成をすべきでした。
昨年3月に決めた低所得のふたり親世帯への特別給付金は、3ヶ月経った今日、まだ1円も払われていません。
また、月20万円を最大9ヶ月分無担保無利子で貸し付ける総合支援資金について、あと3ヶ月分延長して欲しいという声が多いのに、実施せずに国会を閉めることになります。総合支援資金の予算は6月5日時点で4,500億円も余っており、3ヶ月分の再貸付けに必要な1,400億円は十分賄えるのです。
加えて、緊急事態宣言を出しておきながら、飲食店に対する協力金がいまだに支払われていない地域もあります。
バッハ会長をはじめ、国際オリンピック委員会、IOC幹部の特別待遇に大金を払う前に、これまで苦しい中、自粛に協力してくれた個人や事業者にこそ速やかにお金を払わなければなりません。
現役世代への10万円の追加現金給付や期間を限定した消費税減税を含む経済対策が求められています。
短期的な財政均衡に囚われて「未来への過少投資」に陥ることは、我が国の国力そのものを弱体化させます。少子化という我が国が直面する最大の問題に対処するためにも、経済政策を「大規模、長期、計画的な」積極財政に今こそ転換すべきです。
また、格差是正の観点から、国際的な最低法人税率の導入や、富裕層への課税強化、とりわけ金融所得課税の強化も必要です。
医療体制、水際対策、経済対策。国会を閉じることなく議論すべきであり、この人類の歴史に残る有事に通常通り国会を閉じたことは後世の歴史に立法府の自己否定として残ることを国会議員の一人として恥じ、自分の主張を通すことができなかった能力の不足をお詫び申し上げます。